キャバクラ嬢に追っかけられ、ポケモンを強奪された!!
あれは、ポケモン新作「ポケットモンスター ソード・シールド」が発売された翌日の話だった。
私は30代前半のおっさんゆえ、小学生の時に「ポケットモンスター赤」にドはまりし、中学生の時に流れで続編の「ポケットモンスター金」をプレイしていた。
それ以降のシリーズは全くプレイしたことなく、今回の新作発売に伴い、お付き合いしている彼女から「懐かしいから一緒にポケモンやろう!!」と誘われた。昔の思い出が回帰して私も久々にプレイしたくなり、「OK」と返事し、発売日に近くのゲオに購入しにいった。
ここまでは非常に微笑ましく、まるでリア充のような光景だが、私の痛恨のミスにより、ちょっとした恐怖体験を引き起こすことになっていく。
その痛恨のミスとは、私はなんと彼女と同じバージョンのソフトを買ってしまったのである。事前に「私はシールドを予約したから!!」とラインが入っていたにも関わらず、私はすっかりそのことを忘れて、なんとなくパッケージの絵が気に入ったシールドを購入して彼女の逆鱗に触れてしまったのである。
バージョンによって、出現するポケモンが違うことは赤・緑の時代から知っていたが、彼女がそこまで本気でポケモンに取り組む姿勢をもっていたのは驚いた。ポケモンを交換するつもりで私を誘ったことにその時気づいた。なんとなく、懐かしい思いで気軽に始めようとした自分を恥じてしまった。
次の日の土曜日、私はソードを買いなおした。私の元には「ソードとシールド」がそれぞれある。間違って買ってしまったシールドはメルカリで売ってしまおうと思っていて、気持ちは完全にポケモンをプレイすることでいっぱいだった。
すぐにポケモンをプレイしたかったのだが、その日は会社の打ち上げ飲み会があったので、それが終わってからゆっくりプレイしようと決意。ここから、タイトルにあるような恐怖体験につながっていく。
会社の飲み会は会社近くにあるとある田舎町の焼き肉屋で行った。飲み会終盤で誰かが「2次会はこの町の中で一番エロい店に行きましょう!!」ととても魅力的な提案をしてきた。しかし、ここは結構な田舎でスナック数件とキャバクラらしき店1軒あるだけだ。だからこそ、こういった発想になったわけだ。
私もこの田舎町に住んでいるので知っているが、あまりに田舎すぎるのでスナックやらそのキャバクラらしき店には一回も行ったことがないのだ。私的にはわざわざここで飲まなくも・・・という感じでそういった店を遠慮していたところがあった。
そういった事情で、「この町で一番エロい店」という超魅力的なワードにも関わらず、実際エロい店がなく、「そのキャバクラみたいな店」行ってみるか!!という話になった。とはいうのも、そのお店の前に「ワイシャツフェア!!」という、またまた魅了的なワードの張り紙があったという情報を誰かが教えてくれたからだ。
アホな私たちは「ワイシャツふぉー!!!」とかつて一世を風靡した芸人のHGさんの物まねをしながらその町に1件しかないキャバクラらしき店に私含めたアホな数人で突撃した。
しかしここでも痛恨のミスが起きた。ワイシャツフェアは来週で、一切エロくないキャバクラの店内に来てしまったのだ。しかも土曜日の夜にも関わらず店内は私たちしかいなかった。田舎町だから仕方がない光景なのかもしれない。
メンバーの一人である60近い年配の大先輩が、ワイシャツフェアが無くてガッカリしたのか、何をとちくるったのか、「店の女の子みんなこの机に集まれ!!」と店内にいる女の子全員を指名してしまった。中には、ボーイさん的な立ち位置の女性の方も呼んで席に座らせていた。
女の子たちも「えっいいんですか?」といった感じで料金システムとかの説明をもう一度しようとした。しかし聞く耳をもたないエロジイは、さらに何をとちくるったのか、「みんな飲み物も好きなののめー」とまたも暴挙というか、店からは大判振る舞いのVIP客にいきなり成り上がった。
そんなこんなで始まった2次会だが、隣に座っていた女の子とゲーム関係の話をしていた。ふと私は昨日手に入れたポケモンネタを女の子に話して、笑いを誘い、その場を盛り上げようという実にアグレッシブな行動にでた。
隣に座った女の子に対して、「新作ポケモンを間違えて買ってしまった」という一連の流れを話して、笑いを見事にゲットした。営業笑いの可能性は限りなく高いが・・・。
「そのポケモンほしいなー💛」と女の子がアピールしてきた。どうせ冗談やろうと思って、「また今度ワイシャツデイに飲みに来たときに渡すよ」と適当に返事してしまった。完全に話の流れのヨイショ的な会話かと思ったら、どうやら本気だったことを後で知ることになる
1セットが終わり、さあ帰ろうということになった。案の定エロジイのせいでとんでもない金額になったが、店に入る前に「俺が全部はらったる!!」と見栄をはったエロジイが後に引けずに支払いをしてくれた。暴挙な行動の割には意外と安い値段に、意外とリーズナブルに飲めるいいお店なんかなと思って帰路につこうとした。
そして、私の横にいた女の子から「送って行ってあげようか💗」という、これからの未来がパッと開けたような、最高の言葉を掛けていただけた。私の頭の中は完全にお花畑に早変わりしていた。しかし、冷静かつ彼女がいる私は「家近いから大丈夫ですよ」とキッパリ断り紳士的な態度を貫いた。
なにか間違いがあったら遅いのだ。私には、彼女との甘いポケモンライフがこれからまっているのだ。いかに私が魅力的だからといってもそんな甘い誘いに乗るほど私も甘くのだ。
きっぱり断り、メンバーと別れて、ちょっとだけ後悔しながらも家に向かって歩いて行った。そしたら「ぷぷー」とクラクションが鳴った「家まで送るよ💗」というさっきの女の子がまた誘ってきた。「誘われているのか?、なんだ?」と混乱しながら、再びきっぱり断った。
そしたら女の子が「ポケモンくれるって本当!!」ととうとう本性を現してきた。なるほど私の体ではなく、ポケモンが狙いか!!と相手方の心理を完全に読み切った。
「ワイシャツデイにまた店いくから」と嘘50%、本当50%でごまかそうとしたが、「ねえ、いまじゃだめなの?」と車を徐行させながら私を追いかけ、そして私の家に来ようとしている。ポケモンの話では無かったら、完全に私はノックアウトされ、家に入れていたかもしれない。
しかしこれは、男女の仲の話ではなく、私が誤って購入したポケモンの話なのだ。あまりの攻撃的なオネダリに、さすがの私も恐怖を感じた。正直、ちょっとした恐怖からか酔いもさめ、脳内からはお花畑が消えていた。
これがネット記事でよく見る「キャバクラ嬢を男がストーカする恐怖体験」のまるで逆バージョンを私が受けているのだなと感じてしまった。世のキャバクラ嬢の方はこれ以上に恐い経験をされていると思うと本当にゾッとした。
そして、このままじゃ、まさかの家バレすると思い、「ポケモン今からもってくるからちょっと待ってて」と言い残し、そのまま逃げると思いきや、私はまたその女の子が待っているはずのスポットに出向いていた。そう、間違って買ったポケモンシールドを握りしめて
「はい」と渡した女の子(といっても私と同学年らしいが)は若干涙を浮かべて「息子が欲しがってたんだ」と言ってとても感動していたようだ。「別にいいから」と私も最大限カッコつけながら、なんか色々なことを想像してしまった。
シングルマザー、夜の仕事、ポケモン、そこから連想され、脳内で繰り広げられていく私の数々の妄想によって、私はこの日本が抱えている闇の一部を今見ているのではという錯覚を受けた。
初めて行ったお店で私が体験したちょっとした恐怖体験は、最後には「なんかちょっと人のためになったのかな」と勝手に思うことにした。
その後、ワイシャツデーにも関わらず、すっかりそのことを忘れて、それ以降その店には行ってはいない。その同学年の女の子がどんな人で、可愛いかどうかも全く覚えていない。ただ、その息子さんがポケモンを楽しんでいたらいいなーと思いで、私も自分のペースでポケモンを楽しんでいるのだった。